あに図らんや もう一転するとは.....「12人の優しい日本人」
本作は1957年シドニー・ルメットによるアメリカ映画「十二人の怒れる男」(12 ANGRY MEN)へのオマージュとして、「もし日本にも陪審制があったら?」という仮定のもと製作された作品です。
本家と同様にキャラの立った12名の陪審員が終始、一つの部屋の中で繰り広げる会話劇です。
1.陪審員を描いた日本映画
1)だるい展開が俄然、面白くなる
正直、3分の1あたりまでの展開はだるく感じました。
冒頭、ドリンクをオーダーする場面で、それぞれの陪審員たちの個性を現わしているのでしょうけど、ここはちょっとやり過ぎ、と感じましたね。
現実、こんなに様々なメニューを銘々がオーダーするなんてないでしょう?
例えば、「ヤクルト」とか。。。オーダーしないですよね、普通。
11名全員、無罪と意見表明したところでたった1人、2号陪審員が有罪を主張し始めます。
でも彼、皆に「議論しましょうよ、議論しましょう・・」と言うばかり。
でも、自分以外は全員反対、という状況でそこまで自己主張できるものでしょうか?
それも初めて出会った知らない人間ばかりの中で。
それこそ日本人が・・・とやや疑問に思いました。
またこの2号陪審員の「とにかく議論しましょう」一点張りの主張にはちょっと食傷気味といった感がありましたね。
このあたりで「こんな調子の映画なの?」「ちょっとだるいなあ・・・」とやや落胆し始めたのですが、しかし、2人目の有罪を主張する人物(陪審員9号)が現れてから俄然、面白くなってきますよ。
2)結局、最強だったのは
最初から最も真実に近づいていたのが10号の中年女性、演じるは林美智子さんでした。
でも彼女、豊川悦司演じる陪審員11号のサポートを得ないとろくに意見表明もできなかったんですよ。
女性の直感とでも言うのでしょうかね。
てこでも動かない、と言ったらよいでしょうか。
理屈は通じませんよ。
かといってガンガン自説を主張するわけでもないんです。
一見、おしとやかで弱々しそうなのに、誰に何と言われても頑として自分の意見は曲げません。
こういう人って現実にいそうなんです。
観ていてちょっとイラっとしてしまいます。
だけどこういうのが一番手ごわい相手ではないでしょうか。
本作では同じようなタイプの中年男性と結果、タッグを組む形になりましたが、最強タッグでしたよね。
そこに論理的な、弁の立つ、豊川悦司演じる11号がようやく参入してきて終盤、盛り上がってきます。
3)あに図らんや もう一転するとは
以下ネタバレあります。
12名のうち11名全員が無罪を主張、そこで1名が有罪を主張し、全員を納得させ、有罪へと導いていく。
そういうストーリーなのかと終盤までは思っていました。
ところがどっこい、話はそこで終わりません。
もう一転するんですよね。
これは予想外でした。
「おーっと! そう来たか~!!」という感じ。
これがあるなら、ドリンクオーダーのシーンなど省いて、前半もう少しテンポよく進めて、そして、二転三転・・・と進めたほうが、もっとインパクトあって良かったんじゃないでしょうかね、と思いましたよ。
この部分、本家のアメリカ映画にはなかった展開でとても面白いです。
感心しました。
ですから、前半をもっと凝縮してもよかったかなあという思いですね。
2.「12人の優しい日本人」の作品概要
作品概要
作品名:「12人の優しい日本人」
監督:中原 俊
脚本:三谷幸喜、東京サンシャインボーイズ
出演:豊川悦司
3.あとがき
豊川悦司は本作で注目され始めたらしいですね。
終盤、他の陪審員と握手した時、彼の手の大きさに驚きました。
彼、身長186cmもあるのですね。
理知的でまたミステリアスな雰囲気もあり、印象強かったですよ。
それから10号陪審員を演じた林美智子さん。
登場してきた時から、見覚えのある顔・・・と、ずっと思ってたのですが、そう、彼女、NHK連続テレビ小説「うず潮」(1964)で主人公の林芙美子(「放浪記」など)を演じた方でした。
いやそれにしても面影というのは残るものなんですね。懐かしいです。