これが実話を基にした映画だとは考えさせられる.....「運び屋」
クリント・イーストウッドは1930年生まれですから、88歳の時の映画ということになりますね。
しかも監督・主演を務めます。
80歳代でシナロア・カルテルの運び屋になった退役軍人レオ・シャープの実話に基づく映画とのことですが、レオ・シャープは逮捕時87歳だったそうなので、年齢的にもぴったりなんですね。
彼が運ぶ品物の中身がコカインと分かっても運び屋を続けた理由を「コカインは人々を幸せにする植物だから・・・」と言ったそうですが、それってどうなんでしょうか。
そのあたりの感覚はわかりませんねー。
ちなみに原題の Mule ですが、「ラバ」「頑固な奴」という意味以外に「運び屋」という意味があるのですね。
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1.実話を基にした映画
1)色々と考えさせられる映画
とても良い映画でしたね。
様々な言葉が頭に浮かびましたよ。
「男の身勝手」「自分勝手」「仕事と家庭(の両立)」「後悔」「最晩年」「一度きりの人生」・・・
色々な見方が出来る映画だと思います。
でも主人公に共感は出来ませんでした。
家族を顧みず仕事一筋に邁進したんですよね。
家族が夫、もしくは父親を必要とする時に、男の方は最も働き盛りなわけで、どうしても家庭より仕事を優先してしまうのだと思います。
それはそう思います。
私なんかも少なからずそうでした。
それでも家庭のことなんかすっぱり忘れて仕事に没頭するなんてこともないわけです。
頭の片隅には帰りを待っている家族のことがちらついているわけで。。。
でもそれは女性の側から見たら男の身勝手だと言うでしょうね。
それもわかるんです。
というか私ももう若くはなくそういうことが理解できる年齢になったということでもあるのでしょう・・・。
主人公も後悔はしているんですけどね。
でも家族を持った以上、やはり責任はありますよ。
とはいえ一度きりの人生なんだから自分の思い通りに生きたい、というのもわかります。
というか、そこまで意識していなくても、彼は「デイリリー」栽培が好きで好きで仕様がなかったのでしょうね。
そして「ええ格好しい」のようにも見えます。
好きなデイリリー栽培して、稼いで、名声も得て、外で皆にいいかっこをする、社交的だし付き合い上手で、そして皆に好かれそうな人物です。
あくまで家庭外においては、ですね。
でも一方、家族の重要なイベントには顔を出さない、娘の結婚式にも顔を出さない、ということを貫くなら、晩年になって例え、自分の過去の行いを後悔したとしても、今更、家族の前に顔を出しちゃいけないんじゃないかなあ・・・とも思いましたよ。
以下ネタバレあります。
しかし奥さんはよく許しましたね。
「今更、改心されたって・・・」じゃないですか・・・私なんかでさえ、そう思いましたけど。
仕事と家庭とのバランスをうまく取れればいいのでしょうが、「言うは易く・・・」そう簡単なことではないですよね。
また「バランス」って何?と言いたい気もしてきました。
何をどうすればバランスがとれている、と言えるのでしょうね。
仕事に5割、家庭に5割・・・・なんてことでもないでしょう?
家族をもうけた以上責任がある、と言われると、では、はなっから家族なんか持たない人生を選択すべきでは・・・と言いたい気持ちもありますし。
しかし、そこまで割り切った選択ができるとも思えないのも確かで・・・。
いや本当に難しい。。。
自分が運んでいるものがコカインだとわかっても彼は止めたりしません。
金を稼げますからね。
それと彼の腕を買ってくれてるわけで、この年で評価してもらえる、頼りにされている、ということへの満足感、充実感もありそうです。
稼いだ金で友人を助けたり、抵当に取られた自宅を取り返したりします。
いつかつかまるかもしれないけど、とにかく金を得ようと考えたのか。
彼を必要とする人間がいて、それが生きがいになったか・・・
もう人生の最晩年、死ぬまでに出来ることはこれだと思ったか・・・
ああでもない、こうでもないと考えて、全然、割り切れませんでした。
主人公の生き方を理解できないわけじゃないけど、共感はできませんでした。
そして、あのラストシーンを観ると余計「あ、やっぱり身勝手だ・・・」と思いましたよ。
まあそんなわけで、これから人生において、自分はどうなのか?と考えさせられる映画でしたね。
その意味でとてもいい映画でしたね。
2)リンカーンとカーステ
そういう人生における後悔も悩みも、またコカインを運ばされていると知ってからの葛藤もあったでしょうが、当初、オンボロ車で、金を稼いでからは、LINCOLN(リンカーン)で、カーステレオから流れる音楽に合わせて歌いながら長距離を走っている時は忘れられたのでしょうね。
最高の時間だったのでしょう。
車を運転している時だけ、人生の悩みも忘れてられる・・・なんかわかる気がします。
このシーンが一番素敵な、というか微笑ましいシーンでした。
でかいアメ車、左ハンドル、なんてこれまで全く興味がなかったのですが、しかも狭い日本ではかなり不便なんでしょうが、でもそれでもいいなあと憧れを持ってしまいましたよ。
一度は乗ってみたいという気分にさせてくれましたね。
私はあのリンカーンの新車より、その前に乗っていたオンボロの車の方が年季が入っていて好きですけどね。
でも80歳代であんなでかい車を運転できるなんて、大した爺さんです。
3)年とると怖いものもなくなる?
カルテルの人間たち(人相も悪く物騒、あの世界の外国人てホントに雰囲気ありますよね・・・)とも徐々に親しくなっていきます。
彼らもこの年寄りに親しみを感じるようになってきたのでしょうね。
そして彼には長い人生の経験からの知恵も、そしてユーモアもあります。
こういうのを観ていると、年とると怖いものがなくなるのか、死ぬことも怖くなくなるのか、というようなことも考えてしまいました。
家族との問題を別にすれば、こんな風に飄々として身軽に生きられたらいいだろうな、とその点は羨ましかったですよ。
しかし88歳にしてこんないい映画を撮れるクリント・イーストウッドが凄いです。
この年齢にして、頭脳がクリアなんですね・・・
2.「運び屋」の作品概要
作品概要
作品名:「運び屋」(The Mule)
2018年公開
監督・主演:クリント・イーストウッド